2024-07-03

第2回 こごみの庭の土壌(泣きながら掘った話)

安曇野と言えば、観光名所の大王わさび農場に代表されるように、北アルプスの雪解け水が豊かにあふれ流れる風景が思い浮かびます。森や林の中では潤った腐葉土が多様な植物を育んでいるイメージ――ところが、こごみの庭一帯はそうではありません。

西山(にしやま・北アルプスとその前山を地元ではこう言います)の燕岳(つばくろだけ2763m)や有明山(2268m)、大天井岳(おてんしょうだけ2922m)、そして常念岳(じょうねんだけ2857m)など、登山者に知られたこれらの峰は大部分が花崗岩。そこから流れてくる中房川(なかぶさがわ)が作った扇状地、つまり、乾ききった花崗岩の砂とゴロタ石の上にこごみの庭はあります。わさび田を流れる豊富な湧水は、こごみの庭の地面のはるか下を伏流水として通り抜け、あちらで湧き出ているのでした。

アカマツとクヌギがメインの林を伐採してもらい、待望の庭を作ろうと、いざスコップを入れたら、いきなりガツッと金属音。なんと1mmも刺さりません。大きな石が埋まっているのです。伐採した樹木の根が走っていることも少なくありません。運よく石や木の根がなくても、林の中なんかでは、そこは土ではなく、木々の細い根が錯綜した層状のかたまりが表層をなしています。自分の身体をぐるぐる回しながらスコップの刃を何回もさし込んで、やっとその層を取りのけると、その下は例の乾いた砂。そこを掘り始めると、今度は出るは出るは、花崗岩のゴロタ石が小・中・大、そして特大。石どうしが複雑に絡み合って簡単に掘り出せないこともしょっちゅう。しかも出てくるのは砂よりもほとんどが石。

スコップは「金象印」のスコップが最強です。大きい石を無理に持ち上げても折れも曲がりもしません。でも、特大クラスは鉄梃(かなテコ)が必要です。深いところの特大は、鉄梃で持ち上げてその下に別の石をはさみこみ、また鉄梃で持ち上げて、の繰り返しでやっと外へ出します。地道な作業です。

たまに超特大があります。カミさんと2人で、1人が鉄梃で浮かし1人がロープで引っ張ったり、手や足で押したり・・・ああだこうだで1時間も2時間も格闘するときがありました。適地に移動させて椅子にしたものもあります。それっぽい石を庭で見かけたら、どうぞ座ってやってください。

扇状地の林に庭を作ろうとしたら、次のようにクリアすべきことがいろいろあるのでした。

① 木々の伐採

我が家はプロの業者にお願いしました。アカマツは松枯れ病が流行っているので全部伐採してもらいました。でもその本数は相当なものでした。価格は条件によって違うので(例:クレーンが必要な場合、家のすぐ近くなのでクレーンも使えない場合など)よく話をうかがうといいです。それから自分でも塩尻の林業総合センターの講習会に3日通ってチェーンソーの使い方を勉強しました。そのおかげで手に負えそうな大きさのクヌギ・コナラなどは自分で伐ったものもありますが、危険が伴うので専門家に依頼するのがいちばんです。前回お話ししたように、夏がますます暑くなるだろうことを考えると、半日陰を作る気持ちで、ある程度は伐採せずに残した方がいいかも知れません。

② 地面を掘る方法と手間。人力か、重機か。

③ 掘ったところに大量の土を補填しなければならない。その土は。

植栽予定地が決まっているのなら、業者に重機で掘り起こしてもらい、そこに栽培養土を入れてもらうのが理想的です。田んぼの土をトラックで売ってくれる業者もいます。我が家は、最初に作った植栽エリアには田んぼの土を入れてもらいました。ホームセンターで袋入りの土を買うより割安で、重たい土を運ぶ手間も要りません。栄養豊富で植物の育ちも抜群ですが、雑草はものすごく生えます。しかも粘土質っぽいので雑草が抜きにくい。土地に余裕があるならそこに買った田んぼの土を山のように積んでおいて、使う都度に、改良のために軽石(小)や川砂なんかを混ぜて使うのがいちばんいいかも知れません。暖地に住んでいた者には驚きなんですが、粘土質ではダメだと思っていた植物、ジャーマンアイリスだとか、ラベンダー、ラムズイヤーなどが田んぼの土で元気なんですよ。

④ 出てきた石をどうするか。

業者に廃棄を頼むこともできますが、お金はかかります。植栽エリアの縁取りに使う人が多いです。実際、有り余るほど石が出てくるので、あっという間に縁取りができあがります。でも、庭の広さや雰囲気とのバランスを考えずにやたら並べていると、かえって狭さを感じさせたり、マンネリになったりするので気をつけて。平らな面のある石を敷き詰めて舗装にする、積み上げて石垣(低いものもカッコいいです)にするなんてやり方も。扇状地ゆえ丸い石ばかりで、とがった石がないのはちょっとおもしろくないですが。

次回は、こんな乾燥した貧栄養のこごみの庭でも育っている自生の植物、元気な園芸植物を紹介します。では。

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